EXHIBITION

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展示構成

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 本展の冒頭を飾るのは、19世紀の恐竜“発見”から間もない時期に描かれた、パレオアート黎明期の作品群です。

 地質学者ヘンリー・デ・ラ・ビーチの原画による《ドゥリア・アンティクィオル(太古のドーセット)》は、イギリスの女性化石採集者、メアリー・アニングの功績をたたえるために制作された版画で、古生物の生態を復元した史上初の絵画のひとつと言われています。魚竜イクチオサウルスが首長竜プレシオサウルスを捕食しているさまが描かれています。本展では、デ・ラ・ビーチの原画に基づくジョージ・シャーフの版画に加え、これを拡大したロバート・ファレンによる油彩画を出品します。

ロバート・ファレン《ジュラ紀の海の生き物―
ドゥリア・アンティクィオル(太古のドーセット)》

1850年頃 油彩・カンヴァス 190×268cm
ケンブリッジ大学セジウィック地球科学博物館

© 2023. Sedgwick Museum of Earth Sciences,
University of Cambridge. Reproduced with permission

ジョン・マーティン《イグアノドンの国》

1837年 水彩・紙 30.2×42.6cm
ニュージーランド国立博物館テ・パパ・トンガレワ、ウェリントン

Gift of Mrs Mantell-Harding, 1961. Te Papa (1992-0035-1784)

 また、ジョン・マーティンによる《イグアノドンの国》は、イグアノドンの化石を発掘し、“恐竜を発見した男”として知られるギデオン・マンテルの依頼により描かれた作品で、油彩画をもとにした版画はマンテルの『地質学の驚異』の口絵を飾りました。聖書や神話を題材とした作品で人気を博した当時の有名画家、マーティンが描いた太古の世界は、多くの人々に古代への関心をもたらしました。イグアノドンだけでなく、それを取り巻く風景もロマンティックに描き出されています。

 19世紀の復元画は、魚食のイクチオサウルスが巨大な首長竜を食べているなど、現代の我々から見ると奇妙に映りますが、歴史的価値とともに、その奇妙さもまた魅力です。限られた情報のもと、想像をはばたかせて太古の世界を描き出した初期のアーティストたち。彼らのイマジネーション豊かな作品の数々をご覧ください。

チャールズ・R・ナイト《白亜紀―モンタナ》

1928年 油彩・カンヴァス 38.1×96.5cm プリンストン大学美術館
© Trustees of Princeton University / Image courtesy
of the Princeton University Art Museum

チャールズ・R・ナイト
《ドリプトサウルス(飛び跳ねるラエラプス)》

1897年 グアッシュ・厚紙 40×58cm
アメリカ自然史博物館、ニューヨーク

Image #100205624,
American Museum of Natural History Library

 チャールズ・R・ナイトは、19世紀末から20世紀前半にアメリカで活躍したパレオアートの歴史上最大の巨匠です。もともと野生動物画家だったナイトは、生物学的知見に基づき、恐竜をいきいきとした姿で描き現代に蘇らせました。彼の作品は、アメリカ自然史博物館やフィールド博物館で使用されたほか、映画「ロスト・ワールド」(1925年)や「キング・コング」(1933年)などにも影響を与えました。ティラノサウルスとトリケラトプスの対決を描いた《白亜紀―モンタナ》や恐竜を躍動感あふれる姿でとらえた《ドリプトサウルス(飛び跳ねるラエラプス)》は恐竜画における記念碑的イメージです。

 一方、ナイトより少し後の世代の画家ズデニェク・ブリアンは、20世紀中盤から後半にかけてチェコスロバキア(現チェコ共和国)で活動しました。当時の化石発掘の中心地であったアメリカから遠く離れた東欧圏は、直接化石を研究できる機会が限られていました。その環境にありながら、ヨーロッパ美術のリアリズムの伝統を踏まえた彼の作品は、強い説得力を持つものとして国際的に高く評価されました。また、本展では、この二大巨匠に加え、イギリスで活躍したイラストレーター、ニーヴ・パーカーの有名な恐竜画も展示します。

 彼らの作品は、日本の図鑑などにも模写され、恐竜イメージの普及に大きな影響を与えました。かつての少年少女が胸おどらせ夢中で読んだ恐竜図鑑―そこに描かれた憧れの恐竜画のオリジナルが一堂に会します。

ズデニェク・ブリアン《イグアノドン・ベルニサルテンシス》

1950年 油彩・カンヴァス 60 x 48cm モラヴィア博物館、ブルノ
© Jiří Hochman - www.zdenekburian.com
and Fornuft s.r.o. / Moravské zemské muzeum, Brno

ニーヴ・パーカー《ティラノサウルス・レックス》

1950年代 グアッシュ、インク・紙 54×37.6cm
ロンドン自然史博物館 © The Trustees of the Natural
History Museum, London

所十三 漫画原稿( 『 DINO² 』 第 1 話「掟」より)

2002年 インク・紙 37.5x 27cm 作者蔵 ©所十三/講談社

所十三 漫画原稿( 『 DINO² 』 第 1 話「掟」より)

2002年 インク・紙 37.5x 27cm 作者蔵 ©所十三/講談社

福沢一郎《爬虫類はびこる》

1974年 アクリル・カンヴァス 181.8 × 227.3cm
富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館

立石紘一《 アラモのスフィンクス 》

1966年 油彩・カンヴァス 130.3 x 162cm
東京都現代美術館

 19世紀に欧米で成立した恐竜のイメージは、世紀末には日本にも移入されました。古生物学者、横山又次郎によって「恐竜」という訳語が作られて以来、科学雑誌や啓蒙書、子供向けの漫画や絵物語、ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』(1864年)やコナン・ドイルの『失われた世界』(1912年)といった古典SFの翻訳など、恐竜を主題にした出版物が広く刊行されることになりました。これと並行して、恐竜の姿を模した玩具模型が多数制作され、今日では恐竜人気を支える中心的アイテムのひとつとなっています。

 本展では、国内有数の恐竜アイテムの収集家である田村博氏のコレクションによって、明治から昭和にかけて我が国の文化史に登場する様々な恐竜を紹介します。また、恐竜をテーマにした数々の漫画を手掛けた所十三の代表作『DINO²(ディノ・ディノ)』の貴重な原画も展示します。

福沢一郎《爬虫類はびこる》

1974年 アクリル・カンヴァス 181.8 × 227.3cm
富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館

立石紘一《 アラモのスフィンクス 》

1966年 油彩・カンヴァス130.3 x 162 cm 東京都現代美術館

 恐竜はまた、一般的な美術、いわゆるファインアートの領域でもしばしば象徴的なモチーフとして登場します。美術における恐竜のシンボリズムについて、福沢一郎や立石紘一など、いくつかの作例で紹介します。

 1960年代から70年代にかけて、「恐竜ルネッサンス」ともよばれる大きな変革がもたらされます。「鈍重な生き物」から「活発に動く恒温動物」へと恐竜像が変化したことに伴い、恐竜画もさらなる進化を遂げ、新しい表現のアーティストが次々と登場します。

 ファンタジーアートの領域でもカルト的な人気を誇るアメリカのイラストレーター、ウィリアム・スタウト、パステルを駆使して太古の世界の光と影を精緻に表現するダグラス・ヘンダーソンなど、彼らの作品が原体験となっている恐竜ファンも多いのではないでしょうか。

 本展では、インディアナポリス子供博物館や福井県立恐竜博物館のコレクションから、スタウト、ヘンダーソン、グレゴリー・ポールなど、現代の恐竜画の旗手たちのバラエティ豊かな作品群が集結します。

小田隆《篠山層群産動植物の生体・環境復元画》

2014年 アクリル・カンヴァス 115×160cm
丹波市立丹波竜化石工房 ©小田隆/丹波市

徳川広和《イグアノドン》

2010年 石粉粘土 作家蔵 © Hirokazu Tokugawa

 また、現代日本を代表するパレオアーティスト、小田隆の迫力ある作品も特集します。CGを用いずに圧倒的な迫真性を生み出す肉筆画は必見です。きら星のごとき現代スター作家たちの競演をお楽しみください。

 そのほか、立体作品として、徳川広和、荒木一成らによる模型なども登場します。

ダグラス・ヘンダーソン《ティラノサウルス》

1992年 パステル・紙 36.8×68.6㎝
インディアナポリス子供博物館(ランツェンドルフ・コレクション)

Courtesy of The Children’s Museum of Indianapolis
© Douglas Henderson

ダグラス・ヘンダーソン《ティラノサウルス》

1992年 パステル・紙 36.8×68.6㎝ インディアナポリス子供博物館(ランツェンドルフ・コレクション)
Courtesy of The Children’s Museum of Indianapolis © Douglas Henderson

小田隆《篠山層群産動植物の生態環境復元画》

2014年 アクリル・カンヴァス 115×160cm 丹波市立丹波竜化石工房 ©小田隆/丹波市

徳川広和《イグアノドン》

2010年 石粉粘土 体長40cm 作家蔵 © Hirokazu Tokugawa